電子カルテに欠けていると感じていたこと

電子カルテは、その患者さんの医療情報をデータベース上に記録し、それを閲覧、更新していくことで成り立っているものです。これまで紙の上にアナログな情報として文字や絵が記載されいたものをデジタルデータとして保存していくことで成立しています。この患者さんの過去のデータや処方や検査などを時間軸に沿って、あるいは抽出して見ることが可能であり、場合によってはそれを再利用する(前回処方のコピーなど)ことで、省力化を図りながら診療を進めていくことが可能となっています。
このようにその同じ患者さんについての情報収集は可能となっているのですが、例えばこの1年間に治療したリウマチ患者さんのリストが作りたい、あるいはリウマチ患者さんのうち、生物学的制裁を使用した患者さんは誰だっただろうか、とか、今一番よく行われている治療法は何だろう、といった患者をまたぐ情報の収集については残念ながら臨床に簡単に利用できる情報を吐き出すことが可能な電子カルテにはまだ出会ったことがありません。2010年3月に東京大学で開催されたクリニカルデータ国際シンポジウムで、電子カルテを含めた診療によって得られたクリニカルデータを活用することで医療の安全性、経済性なども含めた医療の進歩に貢献できる可能性について勉強させていただいたのだが、これらの国家レベルの活用はともかくとして、現在の電子カルテでは、ある一人の患者さんの診療の経過はフォローできたとしても、例えば今年の入院患者にもっとも用いられている抗生剤は何なのか、この痛みを訴えた時にどういった鑑別診断をし、そしてどういう治療を選択するべきか、といったことをサポートし、医師の負担を減らしていくことが求められていると考えています。これらの医師をサポートする機能が(もちろん十分に実用的な速度で、役に立つ形で)実現すれば、「電子カルテのせいで仕事はしんどくなっただけ・・・」とは言われなくなるのではないでしょうか。
医者は、これまでの経験、各種論文などで得た知識というデータベースを頭の中に持ち、目の前の患者の診断、治療を行うためにこのデータベースの中から情報を取り出し治療方法を選択していきます。医師、看護師、各コメディカルスタッフによって入力された医療情報をデジタル化して収集しているにもかかわらず、このデータを十分に活用する手段を我々に提供できていないことが現在の電子カルテに最も欠けている機能なのではないかと感じてきました。