再び中医協、入院医療等の調査・評価分科会。来春、亜急性期に嵐が吹くのか。

 昨日の中医協、入院医療等の調査・評価分科会の議題は「亜急性期入院医療管理料等の見直しについての影響」というふうになっておりました。昨日のうちに公表されている配布資料を眺めつつ、来春の診療報酬改定の動向なんてものを考えるのはいつものパターン(先日はある方から「中医協ウォッチャー」という肩書きをいただきました・・・)。
 厚労省は今後、医療の機能分化を図ることを目指しています。そのなかで急性期病院をより高度な医療や救急医療にシフトさせ、サブアキュートにあたる部分についてはその次の段階の「受け皿」になる医療機関へと流していくという計画を考えておられます。前回の中医協の入院医療等の調査・評価分科会では今回の上流部分にあたる一般病棟に関する論議がなされていました

http://d.hatena.ne.jp/Toshikun/20130525

今回は、その次の段階を担う病棟区分のうちの一つである「亜急性期病床」のお話。この時期を担っている病床には「回復期リハビリテーション病棟」とこの「亜急性期病床」が存在しますし、そのほかに一般病床の一部がこの分野の患者の受け皿となっていると想定されていますが、その「同様な患者さん」に対応しながら、その診療報酬には大きな開きがあることが今回の会議の論点の一つとなっています。
亜急性期病床が全国でどのくらいあるのかという細かい資料がなかなかなかったのですが、(探し方が悪いのかもしれんけど・・・)今回の資料で17551床という数字が出てきていました。
今回の見直しの影響としていろんな資料がでていますが、どれも「回復期などとの比較」だけで、「前年との比較」になっていないという「見直しの影響」を見ているとは言えない資料ばかりですが、唯一、資料15枚目の回復期リハ病棟と亜急性期病床の年度ごとのベッド数推移のみが「前年と比較できる」資料だった気がします。
 この資料で明らかなことは「ベッド数が伸びている」回復期リハに対して「昨年からベッドの減った」亜急性期ということ。つまりは、今回の改定の影響として、マクロに見れば、今後26万床必要と推計されている分野の「亜急性期等」の中核となるべき「亜急性期」が減少するという影響が出たわけです。これが今回の改定の影響として唯一今回の資料の中で言えることです。ほかは今回の改定とは基本的に無関係なことと言えます。回復期リハと亜急性期の対象入院患者にはいったいどういった差があるのか、というのは、回復期リハ病棟に続き、亜急性期病床の制度が4年遅れで作られた時から現場では言われ続けてきたことで、何を今さら感が満載でした。
 DPCの点数と亜急性期の点数が逆転する時期に亜急性期に移る患者さんが多いということについても「批判的」なようですが、現場から言わせてもらえば「そういうふうに点数表がなっているのに対応しただけ・・・」というのが本音だと思います。どんだけ赤字を出しても問題なく税金から補填してもらえると言われていた公立病院でさえ、「改革プラン」とやらで、経営改善が求められる時代ですから。
 さらにこのデータには「これって本当?!」というデータの信頼性そのものに疑念を抱かざるをえないものが幾つか散見されます。また、「これを同一の視点で比較して意味があるの???」というものも。
 まずは、「救急入院患者割合」というデータ。亜急性期の調査病棟48のうち、実に13病棟が95%以上が緊急入院患者という数字を出しています。これを根拠に資料には「亜急性期でも7:1病棟と同程度に緊急患者を受け入れている病室がある」と結論付けていますが、この数字は本当???というのが正直な感想。亜急性期は一般病床を持っている病院で、一定割合以下しかベッドを持つことができません。緊急で入院してくるような患者を受け入れる病床として利用するのは普通は「一般病床」のほうであるのが通常です。実際に多くの病院で亜急性期は「整形外科術後のリハビリ用」として位置づけられている所が大半であると言われています。一般病床に空きがなくて急遽緊急で入院する患者を受け入れなければならないことが「たまに」あったとしても救急外来から直接という患者が95%以上になるとは思えません。
そもそもこの調査の「緊急入院」の定義が不明確です。アンケートの取り方によっては「亜急性期を病棟の一部に持っている病棟(亜急性期は整形外科病棟のうちの1部屋、とか2部屋が設定されている所が多い)全体の緊急入院の患者割合」なんてものを書いているかもしれませんし、「入院前の居場所」として、「亜急性期に移る前」ではなく、「その病院に入院する前の居場所」から緊急でその病院に入院してきたという場合に「緊急」と考えてアンケートに答えてしまっているかも・・・など、調査には「疑惑」いろいろ浮かび上がってきます。
 また、「在宅復帰率の比較」のデータにいたっては、一体なにを比べているのか。。。と言いたくなるようなデータ。一般病棟には平均在院日数について18日以下などのシバリがある中での在宅復帰です。亜急性は現在「60日」となりました。その60日という入院期間に在宅に帰せたかどうかの数字となります。療養病床の場合にはそういった日数のシバリも一切ないなかでの「復帰率」でしょう。この1ヶ月の間に退院した患者さんがどれくらい自宅に帰ったのか、というときに今月は一人だけ退院患者さんがいて、1年間入院して自宅に退院したら「在宅復帰率100%」ですから、こういうもともとの前提条件の違うなものを測定しているということを完全に無視した比較は滑稽としか言い様がありません。
 近頃業界を賑わせている「ディオバン」問題は、お金の問題とかノバルティス社員であることを隠していたことが問題であったかのように話の論点がすり替えられていますが、一番の問題は最終結論を導き出した「統計処理」にデータ捏造や統計処理方法の根本的な誤りがあって、論文が取り下げになっているということの筈です。「ディオバンは一番良い降圧剤!!」みたいな売り方の根拠が崩れ去ったという意味で、これまでに処方されてきたディオバンの薬代のかなりの部分がこの研究の成果から出されていたともいえることです。
 この診療報酬に関わる統計も全国の病院の今後の経営を左右するような重大な問題を含んでいるにもかかわらず、その集計されている病院数の少なさ(前回エントリーにも書いたように、回収率わずか10%)や、その中身の不確かさを考えるとどれほどの信ぴょう性のある情報なんだろうかと疑いたくなります。この調査もどこかの調査会社が下請けに入って作ったものでしょうが、その回答内容の信ぴょう性についてどれほど精査されているのか。。。。

 この資料での論議の内容がどうなっているのかが一番の興味のあるところですが、議事録がアップされるにはまだしばらくかかります。ということで、ネット上をいろいろ検索して回ると、この会議に関する記事がありました。
http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=40018
会議では、これらのデータを論拠として、「亜急性期」と「回復期リハ」の統一すべきといった意見まで出ているようです。

現在の亜急性期病床は13:1看護師配置で、夜勤2人以上という病棟配置基準で、回復期1と同等であり、それが根拠となっているのか、点数も亜急性期と回復期1が同一点数となっています。回復期にはそれ以外にも多くの専従配置義務があったり、患者の重症率についての厳しい基準があったりすることや、亜急性期病床に入院する患者の多くが軽症者であることも考えるとさらに低い点数でも良いじゃないかと言いたくなります。もっとも代わりに向こうは入院期間が60日以内と短い大変さもありますが。

亜急性期と回復期リハは今回の資料にもあるように「同一な層」の患者さんを対象としています。回復期リハに関して、次の改定へ向けた論議の中で一度も議題となっていないことも考えると大きな変化はないかもしれませんが、「お隣さん」である亜急性期病床に大嵐が吹き荒れると、その余波は必ず回復期にもやって来ると考えて置かなければなりません。この分野を拡大していくという厚労省の方針は変更になっていないようですが、その拡大へ向けた方策はこれまでのように「こっちの水は甘いよ」方式とはならない感じですが、「急性期で生き残ることができなくなったベッドがこの分野に押し寄せてくる」というフン族におされてゲルマン民族が大移動したようなシナリオは十分にありそうです。
 地域にどういう形でこの「亜急性期等」を対象とする病床が整備されていくのか、今後も注視していく必要がありそうです。