カルテの電子化で何を目指すのか(その1)電子カルテは医者の仕事を減らしてくれない。

医療情報が電子化されることのメリットとして、医師が期待することの一つは自分の行なっている医療の臨床データの蓄積に役立てること。各種学会の専門医申請にはこれまで経験した症例の報告や経験した症例数などいろんな基準がありますし、1年間でどういった疾患に対してどういった治療成績をあげたのか、といったことが電子化とともに出てくるようになるのでないかと想像したりします。しかし、これはほぼ幻想。電子カルテのベンダーさんは「DWHを導入すれば・・・」みたいなことを必ず言われますが、これは医療情報部みたいな専門部署を立ち上げられるような大きな病院で、専属のスタッフがいたら「出てくる情報が少しはあるかもね・・・」くらいのレベル。こういった目的のためには、もともと自分で作っている患者データベースのほうがずっと役に立ちます。(前勤務先では、厚生局に提出する患者数のデータも事務では出すことができずにリハ科のデータベースを使って医者の僕がデータをまとめて出していました。日本でシェアNo1の某メーカーの電子カルテが入っていましたが、まともなデータは出してくれなかったなあ・・・)
病院の電子カルテのシステムが「医師」→「コメディカル」という指示の流れになるように作られていることも大きな問題をはらんでいます。すべての業務のスタート地点で「医師によるオーダー入力」が要求されています。この部分を「ID」による個人認証によって指示を出したものは誰かを明確化する仕組みですから、手書きの伝票だった頃には事務さんや看護師さんによるサポートがうまく回るように運用していたものもいったんおじゃんになり、「原則として」すべてのオーダーの入力が医者によってなされることが求められますので、むしろ医者が診療以外の行為=PCへの入力に関わる時間が伸びてしまいます。その入力行為の代行業務として「クラーク」の導入が診療報酬として認められるようになりましたが、これにより医師の負担が減ったというよりは「一度増えたのが少しマシになった」というのが正直なところではないかと思っています。電子カルテ導入で、単位時間あたりに診察可能な患者さんの数は確実に減り、(かつて某市立病院のオープン時、外来予約診察枠が1時間に1人とか2人というDrが何人もいたとかいう噂もありました・・・)その後もその生産性が向上したという話はとんと聞きません。
確実に業務量が減るのは、外来を中心とした医事部門ですが、この電子カルテ導入で確実に業務量が減ったはずのこれらの部署の人員配置が合理化できたという話もあまり聞きません。少なくとも病棟や外来のカルテや伝票類を運搬するメッセンジャー業務はほとんど不要になったはずなのですが、それらの分だけ人件費が減った話もまた聞きません。