「赤ひげ」の幻想

「赤ひげよ、さらば。〜地域医療“再生”と“崩壊”の現場から〜」
という番組を朝9時前から放送していたのですが、うっかりしていて起きてきたらすでに9時半。半分を見過ごしていました。
 穂別の診療所は地域医療の分野ではすごくがんばっていることで有名な診療所でした。その診療所のDrが悲鳴をあげている状況での住民集会での「地域住民」の意見として「医師は寝ないでも24時間365日がんばるのが当然」的な発言は怒りを通り越して悲しささえ感じてしまいました。
 「赤ひげ」という言葉を用いて、地域から立ち去る医師を責める論調はテレビ、新聞を中心によく見られます。何でもできて、心優しくて、24時間365日休み無く患者を診ることのできる医師がいたら本当に素晴らしいでしょうが、そんな医療を提供していたらそのうち倒れるでしょう。仮に倒れずに働き続けられるスーパーマンのような医師がいたとしても、いつかその医師も年をとり、次の医師へのバトンタッチをする時が来るはず。その時、同じ仕事をできる人がまたそこに来ることを期待してもそれは不可能。
 ある意味、穂別のDrたちはそんなスーパーマン的な働きをしてきたわけですが、それをスーパーマンの仕事とは思わず「医師なら当たり前」的な扱いを受けていたわけです。柏原の小児科を守ったお母さんたちの事例を紹介され、「お医者さんに感謝しよう」という呼びかけにさえ反発して見せた「地域住民」の言葉には脱力してしまいました。
 地域医療の使命の一つは「継続」ということを改めて実感。その場にあり続けて、そこで提供し続けることがいかに重要であり、そして本当に大変なことであるかがわかるのは、それが目の前から消えるとき。スーパーマンではない普通の人間が継続できる医療でなければ、地域医療はけっして守れないのです。