今の医療保険制度の論議は・・・

 童話「北風と太陽」の北風さんのような政策ばかりが目に付きます。勤務医から開業医になる人が多い=きっと開業して金儲けがしたいからだ、だったら開業してももうからないようにすればいい。これって本当でしょうか?小児科や産科が不足しているので重点的にこれらの分野に医師を強制配置させるべきだと読売新聞さんが提言しておられますが、足りない分野はそれだけではありません。外科医が足りなくなりそうなので強制的に外科医を養成しなければそのうち外科が消滅すると外科学会が新聞広告まで作りました。http://www.jssoc.or.jp/aboutus/relatedinf/asahi_interview_20070707.pdf麻酔科医も全然足りなくて手術ができないということは日本中で起きています。ちなみに眼科、皮膚科は「余っている」ということになっているようですが、病院の皮膚科や眼科の常勤医がいなくなってしまったという話はそれこそ掃いて捨てるほどあります。今医療訴訟や大相撲のイジメでの死亡、チームバチスタなんかで話題になる死後の医学的検索に重要な役割を果たす、病理学、法医学はほとんど絶滅危惧種の様な状態。
 さらに今日本中を蝕んでいるのは「内科」医の不足です。マイナー科が不足しても病院はなんとか回りますが、内科が不足した瞬間、病院としての機能が大きく低下してしまいます。
 そして忘れてはならないこととして、医学研究の分野も大きく落ち込んできています。いろんな要因がありますが、(個人情報保護法とか事前の患者さんの同意をとることの厳格化とか)臨床系を中心に大きく落ち込んできています。(認定医や専門医の維持のために学会発表数はそんなに減っていないかも・・・)大学病院の独法化から、経営至上主義というか、黒字化することを求められる中、研修医の減少もあいまって大学の中で研究を頑張る時間も心と頭の余裕も無くなってしまっているのです。さらには、任期制のポストばかりになり、不安定雇用の中で研究を行わざるを得ない状況となってしまいました。任期5年のポストで実質まともに研究できるのはいったい何年でしょう。
 みんなの求める「良質」な医療を提供し、「科学立国日本」を継続する研究を行って行くことの可能な人員はあらゆる分野から消えてしまっているということが理解されていないのではないでしょうか。

医療の提供を考えるには3つの柱があります。
1.アクセス
2.コスト
3.クオリティ

1.は、いつでもどこでも病院にかかることができるということです。
2.は、医療費のこと。自己負担であっても保険であっても、あるいは税金からであっても、結局は国民が負担する費用全体ということです。これは少なければ少ないほどよいと考えられているはずです。
3.は、医療の質。最良の医療をなんと定義するかはいろいろ立場によって違う部分もあるでしょうが、最新の医薬品、医療機器、治療法などが考えられます。

この3つを同時に満たすことは不可能です。例えばガン対策基本法の通りに日本中で世界水準の外科治療と化学療法と放射線治療を受けられるようにするには日本中にリニアックを配備し、その放射線治療専任の放射線科医を配置し(日本のほとんどの放射線科の先生方は写真の読影と治療のかけもちになっています)、化学療法専門医を揃え(今はそれぞれの診療科の先生が手術もし、化学療法も行い、という状態ですが、「世界水準」の医療を行うとすれば化学療法専門の医師が必須でしょう)、緩和ケア専門チームを作り(今みたいに他の仕事の片手間では、早期からの全ての患者に対応可能な緩和ケアは不可能です。)・・・ということをやらなければいけません。
これを完璧にやれば上の3.はクリアできるでしょう。そしてこれを全国で行うことが可能となれば1.もOKです。しかしとんでもないコストがかかりますから2.をクリアすることは不可能です。
 同様に救急医療の「たらい回し」を解消するために病院側の体制を整備し、ドクターカーやドクターヘリをガンガン増やし、24時間常に最良の専門医療を受けられる(そういうことを要求する医療訴訟とかマスコミさんは多いです)ようにするにはいったいどれだけの人員が必要なのか想像もつきません。あるいは、医師も看護師も今を超える労働強化となるのか・・・。そしてそれに耐えきれず、さらに救急の現場から医師が去っていくことになるかもしれませんね。

 今の医師数、今の医療費負担で可能な医療レベルとするにはアクセスの制限、医療の質の限定的提供とならざるを得ません。時間外診療の自己負担の増額、救急車の有料化などは真剣に論議されるべきでしょう。少なくとも小児科医療費無料化は確実に小児救急の首を絞めたことは間違いないと感じています。とにかくどんなことでもお気軽にどうぞ、といえるような状況でないにもかかわらずガンガンやってくる環境はかなり厳しいです。そして各地で次々と小児救急がつぶれていきました。この結果、本当に医療の必要な子供達から受診できる場所を奪ってしまったと言うことです。

 3日かかってだらだらと書いてきたせいで中身がわけわからなくなりそうなので、このあたりでいったんアップします。